地域医療連携
シンポジウム
レポート

知事の会の設立に係る趣旨説明

 はじめに、国の医師確保政策の変遷について振り返ります。
1970年代は、医師増加政策の時代でした。1973年から、「1県1医大構想」のもと、医科大学・医学部がない県に医科大学・医学部が新設されました。 1985年に、第一次医療法改正により、医療計画制度が導入され、基準病床数制度が創設されました。このころから医師の増加政策にブレーキがかけられ、将来的に医師が過剰になるとの需給推計に基づき、医学部入学定員の削減が進められました。
 2004(平成16)年には、新たな医師臨床研修制度の導入に伴う、いわゆる大学への医師の引き揚げにより、地域の病院が医師不足に陥りました。「地域医療崩壊」という言葉がマスコミで語られるようになり、医師不足・医師偏在対策へと舵が切られます。
 2006(平成18)年の「新医師確保総合対策」、2007(平成19)年の「緊急医師確保対策」で、地域枠の拡充や医師が少ない県における医師養成数の増加が認められました。
 そして現在、都道府県は「医師確保計画」の策定を進めており、果たして都道府県ごとの計画だけで、目指す医師確保ができるのかという問題に直面しています。
次に、医師確保偏在対策を含む、現在の国の医療政策の全体像を確認します。
 2014(平成26)年の医療法改正により、都道府県では、団塊の世代が全て75歳を迎える2025年に向けて、地域の医療提供体制を構築するため、「地域医療構想」を策定し、その取組を進めています。昨年9月には、再編統合の議論が必要な公立・公的病院のリストを国が公表し、問題になりました。
 2024(令和6)年には、医師にも時間外労働規制が適用されることから、医師の労働時間短縮・健康確保と必要な医療の確保の両立に向け、「医師の働き方改革」を進めなければならないことにもなっています。
 国の経済財政諮問会議では、これら3つの取組を三位一体と呼んでいますが、地域医療構想、医師の働き方改革は、医師の確保が大前提であると考えます。

知事の会の設立に係る趣旨説明

 次に、医師の地域偏在対策の必要性についてです。
 一つ目は、「医療需要は市場原理のみに基づくと満たされない」ということです。
 医師不足地域の住民は、受診のために時間的・経済的コストを強いられるという実態があります。そして、医師不足は、残った医師への業務負担を増大させ、医師不足の悪循環に陥ります。医師がいることを前提とした経営計画も行き詰まり、病院経営が成り立たなくなることにつながります。このような、地域医療崩壊の危機を回避するためには、市場原理のみに基づくのではなく、偏在対策に、国、自治体が積極的に関与していくことが必要です。

 二つ目に、「地域医療なくして地方創生なし」ということです。
 昨年12月に、第2期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」が閣議決定され、地方創生の動きを更に加速させていくこととなっています。誰もが住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最後まで続けられるためには、医療・介護・予防・住まい・生活支援が包括的に提供される地域包括ケアシステムの構築を進めなければならず、医療サービスは不可欠な要素です。

 三つ目に、「地域医療なくして地方自治なし」です。
 地方公共団体は、住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を担っています。共同体として自治を行おうとすれば、医療という要素は不可欠であると言えます。日本全体の医療のあり方を国が定めるという面もありますが、団体自治、住民自治のなかで、医療のあり方を決めていくことが、地方自治であるという面もあります。住民がその居住する地域で、必要なときに適切な医療を受けられることが、地域における医療のあるべき姿であり、「地域医療なくして地方自治なし」と言えます。

 そして四つ目、「医療の原点は地域医療にあり」です。
 医療の原点は、「人を診る」ことであり、地域の自然、生活、文化などの背景も含めて患者に向き合うことなくして医療の本質的な進歩はあり得ないといえます。地域医療の現場で学ぶことで医師として成長することができると考えます。そして、医療あるいは医学全体の中に地域医療という分野がかなりの程度の大きさを占めていなければ、原点を失った医療・医学というものは崩壊してしまうのではないかと考えます。


 国は新たに、一定期間の医師不足地域での勤務経験を評価・認定し、認定医師であることを一定の病院の管理者要件とする制度を創設しましたが、その対象病院は、地域医療支援病院に限られる方向であり、施策の実効性が懸念されます。

 また、新たな医師不足・偏在対策は、都道府県が策定する「医師確保計画」に基づく都道府県を主体とした取組を中心としています。国は、都道府県を超えた医師の派遣調整について、都道府県に対し必要な支援を行うこととされていますが、具体的な派遣調整の方法については示されていません。都道府県を越えた適正配置など国が主体的かつ具体的に関与した仕組みが必要です。

 第2に、医師の養成・確保のため都道府県は多額の財源を投入しており、財政的な支援が欠かせません。地域医療介護総合確保基金については、地方の深刻な医師不足など地域の実情に即した配分の見直しが必要です。

 第3に、今後の医学部定員に関することです。骨太の方針は、医学部定員の減員に言及していますが、医師不足地域においては、定員増の恒久化が必要です。

 このため、青森・福島・新潟・長野・静岡・岩手の6県知事が発起人になり地域医療を担う医師の確保を目指す知事の会を発足いたしました。

 私たちの現状認識は、「医療は国民の生活に欠くべからざるものであり、誰もが地域で必要な医療を受けられるとともに地域の医療従事者が働きがいのある医療環境を作っていく必要があるが、今日、我が国の地域医療の現場では医師の絶対数の不足や地域間・診療科間の偏在等が極めて顕著となり、いわば「地域医療崩壊」の危機的状況にある。」というものです。

 医師の不足や地域間の偏在を根本的に解消し、住民がその居住する地域で必要な時に適切な医療を受けられる体制を構築するためには、国全体で地域医療を守る仕組み、地域医療に携わることで医師が成長し研鑽を積むことにつながる仕組みが必要であり、国を挙げて実効性のある施策に取り組むことについて、医師不足県が連携し情報発信や国への政策提言等に取り組めるよう「地域医療を担う医師の確保を目指す知事の会」を設立します。
知事の会では、全国の医療関係者や行政関係者への理解促進、国民の機運醸成、国への働きかけを行っていきます

基調講演

邉見 公雄 氏
(一社)全国公私病院連盟 会長 
邉見 公雄 氏

講演内容/
生命(いのち)輝かそう令和の日本人」

講演の様子

 『「生命輝かそう令和の日本人」~地域包括医療・ケアの時代に~(三位一体改革を乗り越えて)』という演題のもと、地域と一体になった医療の運営に長年尽力している邉見公雄氏に、日本の医療の現状を講演いただきました。
 「『医師の需給を改善しないことにはすべてが始まらない。』という強い思いで医師を増やすことはもちろん、医師の教育環境の改善が必要」との考えを説明。自らが経験した地域医療の実態を軸に、良い医療とは何なのか、日本の医療制度のこれから進むべき道は何なのか、それらの実現に向けて地方自治体が担う役割や、地域住民の方々とともに作り上げる地域医療の重要性をお話し頂きました。

パネルディスカッション

コーディネーター
望月 泉 氏
(公社)全国自治体病院協議会 副会長
望月 泉 氏
パネリスト
  • 達増 拓也
    岩手県知事
    達増 拓也
  • 邉見 公雄 氏
    (一社)全国公私病院連盟 会長
    邉見 公雄 氏
  • 田村 良彦 氏
    読売新聞東京本社
    メディア局 専門委員

    田村 良彦 氏
  • 山口 育子 氏
    認定NPO法人
    ささえあい医療人権センターCOML 理事長

    山口 育子 氏
  • 鈴木 榮一 氏
    良医育成新潟県コンソーシアム 代表
    (新潟大学教授)

    鈴木 榮一 氏
望月 泉 氏
コーディネーター 望月 泉 氏

 これまでも各地域において、地域医療を守るために医師確保の取組みなどを進めてきています。まずはパネリストにこれまでの取組みと課題についてご紹介いただきたいと思います。

鈴木 榮一 氏
良医育成新潟県コンソーシアム 代表
(新潟大学教授)
鈴木 榮一 氏

 新潟の医療の実情ですが、残念ながら格差はだんだん開いています。
一方で、自治医科大学の地域枠を増やす方向で医師不足解消への取り組みが始まっています。その努力もあり、定員は増えていますが、地元出身の医師がなかなか増えない。臨床研修医を増やしたいというのが我々の希望であり、医師会や県の奨学金のほか、産科・精神科の特定領域で、研修医向けの奨学金制度を作ったりもしています。

講演の様子

 新潟県内に研修病院は20ありますが、これが一丸となって新潟の研修医を増やそうという趣旨から、良医育成新潟県コンソーシアムというものを組織しました。2008年に新潟県と県内の研修病院すべて、大学も参加して、臨床研修のPRや指導体制など様々な取り組みについて議論し、医療機関と大学・県が一体となり取り組みを進めています。

 その成果として、今現在、全国の63大学から600人くらいが新潟県で研修をしています。  最後に、いま臨床研修を実施しているところに国の補助金は出ていますが、より臨床研修病院が元気になるような支援をしてほしいということが望みです。なかなか「言うは易く行うは難し」で簡単なことではないですが、地域や診療科ごとに専門研修の定員枠を設定でき、そこでマッチングできるようになれば、地域偏在が解消されるんじゃないか。少なくとも現在の制度では、医療偏在の解消はできないだろうと思っています。

 新潟県としては、まずは奨学金制度を利用した地域医療を担う医師を養成することを目標としています。新潟大学だけではなく、新潟県地域枠を少しずつ増やし、そこで養成するのが必要だろうと思っています。当然、技術研修・専門研修を充実させて、もっと医学生・研修生に発信する。研修病院の指導員の先生は本当に大変ですが、そういう体制を新潟県として取らないといけないのではないかと思っています。  そのためには研修病院、研修医、指導教員の充実が必須となります。県として、そこにいかに支援してもらえるかが大事というのが私の考えです。特に、他の大学から来た学生に新潟県の魅力をいかに感じてもらい、医療に貢献してもらうかが大事だと思っています。

山口 育子 氏
認定NPO法人
ささえあい医療人権センター
COML 理事長
山口 育子 氏

 私たちのグループの自己紹介をさせていただきますと、私たちは、「患者がもっと主体的に医療に参加するような賢い患者になりましょう。そのためには、ひとりひとりが命の主人公であり、からだの責任者なのだという自覚をするところから始めよう」という考えを原点として活動を続けてまいりました。特にずっと大切にしてきたことは、患者と医療者は決して対立する立場ではなく、協働できる関係であるという事です。『キョウドウ』という言葉にはさまざまな漢字がありますが、協力の『協』に『働』くという字であることにこだわっていて、この漢字の持つ意味が「同じ目標に向かって歩む立場の違う人同士がそれぞれの役割を果たしあう」。患者も自分の役割を果たすということがこれからは大事なんだということで、それを実現するためには何よりも患者と医療者のコミュニケーションが大事ということで、いかに医療現場により良いコミュニケーションを根付かせることができるかということをテーマに活動しています。苦情や文句は簡単に言えますが、そこから患者のわたしたちも卒業し、冷静かつ成熟した提言を医療現場に提案できる、そういう患者市民を増やしていきたいという思いで活動してまいりました。

講演の様子

 私たちの活動はもちろん医学教育にも参加しますが、もっと一般の方に医療の現状、もちろん不確実性や限界もさることながら、いま起きている医師偏在問題についてもしっかりと理解をしていただく為の啓発活動にも力を入れてやっています。例えば、地域医療構想ひとつをとっても、ガイドラインの中には「地域医療構想を策定する前から住民の意見を聞く必要がある」とありますが、実際にはなかなか自分の住んでいる地域の地域医療構想自体を読んだことがないという人が多いのが実情ではないかと思います。2025年まであと5年を切りましたが自分のこととして考えている住民が全国の中でも少ないことを憂慮しています。

 特に市民参画、PPIと呼ばれますが、いろいろなところでこの市民参画が叫ばれています。たくさんの人に意見を述べてもらうことによって、自分の住んでいる地域の医療を理解し、行政や医療現場と共に良い医療をつくる一員になっていただく必要があると考えており、医療を支える市民養成講座を基礎講座として、アドバンスコースとして医療関係会議の一般委員養成講座を2017年度から実施しております。既に厚労省の会議に多数の委員を輩出しています。

 今日のテーマである医師不足と偏在問題についてですが、様々な地域の実態をお聞きする中で、医師の偏在問題は以前から感じていました。この医師偏在問題は長年にわたってまったく解消されていません。日本という同じ狭い国に住んでいながら地域によって受けられる医療が質も量も違っている、これはある意味では憲法違反とも思うくらい、我慢している地域の皆さんにいつまで我慢を強いるのかということも含めて、国の医師需給分科会ではしっかりと対策していかなければならないのではないか、という思いで発言を続けています。

 医師の働き方ビジョン検討会の中で、医師の強制配置とは何事だという意見があったようです。でも私はちょっとそれはおかしいなと思っています。一般社会ではどこかの企業に入社すれば必ずどこかに異動ということがあるわけです。新聞記者も地方勤務6年は義務だと聞いています。なぜ医師だけ強制配置という言葉になるのかそのことについて私は疑問を感じています。ある程度強力な配置を進めない限り、偏在問題は解消しないと思っています。加えて、若い人になぜ抵抗があるかというと、結婚して子育てをすることを考えると、どうしても都会に残りたい。であれば、医師不足地域で一定期間勤務する人の年齢を40~50代くらいの、ある程度家庭が落ち着いて、ひとりで行ってもいいですよという年代に行っていただく方が実効性があるのではないかと考えています。

 診療所が都市部に集中していることと、診療所の専門性の細分化ということが言われておりますが、診療所については開設について何の規制もないことが問題ではないかと思います。

 認定医制度を開業するための条件にしないと実効性がないと申し上げてまいりました。(医師需給分科会第4次とりまとめでは、)「地域医療支援病院以外でも、地域医療の貢献を目指す病院・団体は自主的に自院の管理者要件に認定医師であることを加えるべき、という意見もあった」とされましたが、この辺りをもう少し拡大しないかぎり、本来の意味での実効性がないと思いますので、発言を続けていきたいと思っています。

田村 良彦 氏
読売新聞東京本社
メディア局 専門委員
田村 良彦 氏

 医師偏在問題解決のための提案として、読売新聞が2008年に出した医療改革提言というものを基にお話しさせていただきたいと思います。この提言が出たのが2008年。その4年前に臨床研修制度の改革が行われました。幅広い診療科を見ることができる医者を育てようという考え方そのものはよかったのですが、研修医の大学病院離れがあまりにも急激に起き、医療現場に様々なひずみが起きました。そういった医療の状況を何とかしなければと読売新聞が出したのが医療改革提言です。提言の本文を引用して説明します。「医師が勤務する診療科や地域を自由に選ぶことができるため、激務の診療科や地方の医療機関を敬遠しがちなことがある。医師の配置には『診療科間での偏り』と、『地域間の偏り』という二つの偏在がある。その解消を図ることが必要だ。ただすでに専門の診療科で勤務しているベテラン医師に、他の診療所に移るよう求めることは現実的ではないだろう。そこで、今後後期研修を受ける若手医師について、研修先を自由選択に任せるのではなく、地域、診療科ごとに定員を定めて計画的にバランス良く配置するよう制度を改める」というものです。

 新しい専門医制度では、後期研修医と言わずに専攻医と呼ばれていますが。まさにそこで行われようとしている、どこの地域に何の専門のお医者さんがどのくらい必要なのかまず出したうえで計画的に配置すべきではないかという内容でした。しかし、先ほど山口さんがおっしゃったように、「これはなんだ、強制配置ではないのか、医師の人権を無視するのではないか」という誤解もありましたが、そうではありません。「若手医師の進路の決定にあたっては医師の希望を聞いたうえで地域診療科の定員枠を上回った場合には医師を第二希望以降の地域診療科へと計画的に配置する。強制や義務ではなく、医師の希望と意欲を生かす配置の仕方が求められます。」

 次の部分もポイントなのですが、「配置された若手医師は大学病院をはじめとした各都道府県の基幹病院に勤務し、専務医になるための研修を受ける。こうして地域の中核病院の医師数が充足されることによって、これらの病院から中堅、ベテラン医師を医療過疎地域へ派遣することが可能となる」。

 先ほど緩やかなマッチングという話もありましたがそれにも近いかもしれません。

今の専門医制度の一つの懸念として、地方では十分な研修が受けられないのではないかという心配がある様ですが、必ずしも地方の病院というわけではなくて、地方の中核病院に若い先生が集まれば、それによってベテランの先生を本当の医師不足の地域に派遣し働いていただくことができるという内容の提言です。

 ではこういった提言の考え方の基盤にあるものは何かということですが、見出しに「医療は公共財の視点を」とあります。「医療は国民の命と健康を守るために欠かせない公共財であり、医師の勤務先の選択にも一定のルールが必要ではないか。社会的責任を担う医師のみが国民の信頼を得ることができる」。やはり一定のルール、方向性、仕組みを国で作り上げることが必要ではないかと思います。

達増 拓也
岩手県知事 達増 拓也

 岩手県も県唯一の医大医学部である岩手医科大学医学部の定員を増やして、そのなかで奨学金養成医師を育てて地元に残ってもらうということを地道に続けています。また、研修に当たっては岩手県内の県立病院や公的病院がひとつになってワンチームで連携して研修をやっていく体制を作っています。新潟の例もお伺いしましたが、各県涙ぐましい努力を重ねて人を確保し育てているのだと思いました。やはりこの自由放任でどこの地域でどんな医者になっても良いという制度のなかではやはり人数が足りなくなり、診療科ごとの偏在という問題も出てきます。先ほど医療は公共財だという視点もありましたがまさにその通りだと思います。そういった視点から全国の地域バランスや診療科ごとのバランスの基準を設けてそこに誘導していく、様々な資格や要件、そして地方病院での勤務を義務化していくことが必要なのだと改めて思いました。

集合写真
望月 泉 氏
望月 泉 氏

それでは最後に、本日発足する「知事の会」へ期待することを皆さんからお伺いしたいです。

邉見 公雄 氏
邉見 公雄 氏

教育や防衛にはある基本法ですが、医療には基本法がない。こんなに大事な分野なのに基本法すらないというのがこの国の弱いところだと思います。やはり行政のほうからやっていただければと思います。

山口 育子 氏
山口 育子 氏

2年前に岩手県のシンポジウムにお招きいただいた。その時は一般の方向けの会だったのですが、達増知事は最初から最後まで出席しておられました。知事の方で最初から最後までいる方は本当に珍しいと思いまして、そういう姿を県民に見せることが本気度を伝えることになるのだと実感しました。今回は複数の知事で会を発足するということで、まずは住民の方にどれだけ医療の実態を一緒に考えてもらうことが必要かということについて発信をしていただきたいと思います。いろいろなかたちや場所で発信していかないと伝わらない時代が来ている。ぜひ知事の会にはそういったことを期待したいです。

鈴木 榮一 氏
鈴木 榮一 氏

私はいわゆる医師を育てる立場なので、医学部の学生や研修医に知事からさまざまなお声掛けをいただくことの影響力は大きいと思う。せっかく6県でやるのであれば、うまくいった事例などのアイディアを共有しあい協力し合いながら良い方向に向かって欲しいです。

望月 泉 氏
望月 泉 氏

各県の好事例を共有するのは非常に大事だと思います。ありがとうございます。

田村 良彦 氏
田村 良彦 氏

ひとつは、地域医療構想、医師の働き方改革など大きな動きが進んでいるこの機会をチャンスととらえてさまざまな働きかけをしていただきたいと思っています。そして医師偏在の問題は決して日本の一部の地域だけの問題ではなく、日本全国の人が考えるべき問題であるということを最後に共有したいです。

共同記者会見

 それでは発起人を代表いたしまして、岩手県知事達増拓也より「地域医療を担う医師の確保を目指す知事の会」の発足に関わる挨拶を兼ねまして趣旨説明を行います。


岩手県知事

 今日は共同記者会見にご参加下さいまして誠にありがとうございます。青森、福島、新潟、長野、静岡、岩手の六県知事が発起人となり、地域医療を担う医師の確保を目指す知事の会を立ち上げました。

 改めて国の医師確保政策の変遷についてでありますが、昔は医師を増やそうということでやってきたわけでありますけれども、1985年頃に医療計画制度の導入で、病床数や病院規模の規制のようなことが始まり、将来的に医師が過剰になると言う需給推計が出され、医師の増加政策にもブレーキがかけられ、医学部入学定員の削減が進んだわけであります。

 ところが2004年、新しい医師臨床研修制度の導入により、日本中が大騒ぎになるような医師不足の現象が地域の病院に広がったわけであります。国においても、医師不足・医師偏在対策に舵が切られ、新医師確保総合対策や緊急医師確保対策といった地域枠の拡充や医師が少ない県における医師養成数の増加が認められるなどの動きがあったわけですけれども、その後一進一退の中、都道府県は医師確保計画というものをつくらなければならないということになり、またその計画に基づいた医師確保偏在対策を日本全体で進めようということになっているわけであります。いわゆる三位一体ということがこの国の医療政策でも言われていまして、まず今述べた医師確保偏在対策、そして地域医療構想、そして医師の働き方改革と言うことが出てきたわけです。地域医療構想で、『ここに病院があるけどさっぱり患者さんが来てないじゃないか』と指摘されたりするけれど、潜在患者数は多いのに、医師が足りないので、県庁所在地の病院から時々応援で週に1日2日しか診療科が開かれていないから来院数が少ないという事がある。その辺をニーズが少ないからという理由で病床を減らせ、病院を統廃合ということになっても困るわけですし、医師の働き方改革、病院勤務医が働きすぎ、夜勤も大変だというのも、医師不足が故にそうなっているというところがかなりあるわけでありまして、医師不足の問題を解決しないまま医師の働き方改革といって医師の働く時間をどんどん削減していくと、地域の医療がなくなってしまうような方向に進んでしまうということが懸念されています。そして、そもそも論としての医師の地域偏在対策の必要性についてなんですけれども、そもそも医療提供は市場原理のみに基づいてはならない、先ほどのシンポジウムでは自由放任ではだめだということが言われていました。また、『2番目に地域医療なくして地方創成なし』という発言は、地方創生ということのためにも地域医療がきちんとないと、そこで働き暮らせる地域として選んでもらえなくなる危険性があるための発言であります。そして地域医療なくして地方自治なし、地方自治体として市町村そして都道府県、地方公共団体が住民のみなさんに責任を果たしていこうとする場合にもこの地域医療というものがなければその責任を果たしていくことができない。地域住民においても、やたら病院の救急に飛び込むのではなく、風邪気味程度の症状なら、平日にかかりつけ医に行くようにしようというなど、自治の中で住民たち自ら学んで地域医療に寄り添っていくべきでなないでしょうか。

 医療の原点は地域医療にありということは、シンポジウムでも複数のドクター、お医者さんの方がおっしゃっていましたけれども、地域医療と言うものを大事にしないと、医療全体、医学全体が、決定的なものが足りない状態になってしまうということであります。国の医師不足と地域偏在対策の問題点は、この医師不足地域での勤務経験を一定の病院の管理者要件としているだけでは足りないのではないかということです。都道府県を超えた医師の派遣調整に必要な支援を国が行うとしているのですけれども、より具体的な仕組みが必要であると感じています。

 そして財政支援の問題、医学部定員の問題もあります。そこで、設立趣意書「医療は国民の生活に欠くべからざるものであり誰もが地域で必要な医療を受けられるとともに地域の医療従事者が働きがいのある医療環境を作っていく必要があるが、今日わが国の地域医療の現場では医師の絶対数の不足や地域間診療科間の偏在等が極めて顕著となりいわば地域医療崩壊の危機的段階にある」と。そして求めるものはここにある通り医師の不足や地域間の偏在を根本的に解消し、住民がその居住する地域で必要な時に適切な医療を受けられる体制を構築するため、国全体で地域医療を守る仕組みです。

 地域医療に携わることで、医師が成長し研鑽を積むことにつながる仕組みが必要であり、医師不足県が連携し、国への提言等に取り組めるよう、地域医療を担う医師の確保の知事の会を設立するということであります。知事の会では、
①全国の医療関係者や行政関係者への理解促進、
②国民の機運醸成、
③国への働きかけを行う
ということで今日のこの記者会見前のシンポジウムも理解促進、機運醸成に関わる取り組みでありました。そして具体的な提言を各都道府県で今年度中に医師確保計画を策定することになっていますので、その内容を踏まえて、今年の6月内容をまとめていきたいと思います。6月に参加県の知事が集まって知事の会を開催し提言、決議を行った後共同で政府予算低減要望を行い国への働きかけを行っていくと言うスケジュール感であります。8月には全国の病院事業管理者が集まる会議がありますので、そこで提言内容について説明するなど国への直接の働きかけのほかに国民への機運醸成、関係者への理解促進にも取り組んでいきたいと思いますのでどうぞよろしくお願いいたします、ありがとうございます。


 続きまして、新潟県知事 花角 英世様から発起人としてご挨拶をいただきたく存じます。


新潟県知事 花角 英世氏

 今ご説明があったように、達増知事から今回の会の発足のご提案をいただきまして、新潟県としても、この地域医療の担う医師の確保、大変苦しんでいる県として、この知事の会を大変意義のあるものだと受け止めまして、発起人の1人として参加させていただくことにいたしました。

 この知事の会も、設立にこぎつけるまでの達増知事のご尽力に感謝申し上げたいと思います。今ほど申し上げましたように、昨年国が発表した医師の偏在指標におきまして、岩手県と新潟県が並び、医師不足の深刻さが明らかになったところでございます。もちろん今までも様々な努力をしてまいりましたが、県の努力では限界があり、全国的な制度を運用する国でなければできないことがたくさんある、県を超えた調整は国でなければできないことでありまして、そのためにはやはり共通の危機感をもつ県が連携して、共同して行動を起こすということが国に対しても大きな影響を及ぼすことができるのではないかと思っております。先程申し上げました、この知事の会の活動、大変大きな効果を生むのではないかという期待を持っておりまして、その一員として、これからしっかり情報の発信、あるいは国への提言を行っていきたいと、そのように思っております。

集合写真

岩手県の取組み

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